天皇制支配層は、全般として右も左もわからなくなった。もうどいつもこいつも共産主義者に見えてくる。だがしかし、このような惑乱の中でこそ、国体とは何であるのかという問題は、かえって明瞭に把握可能なものとして現れている。否、近衛らが惑乱していたと考えるべきではないのだ。むしろ彼らは、国体の本質を実に正確にとらえて表現することができたという意味で、あくまで明晰であった。その本質は、「国体を否定する者=共産主義者=左右を問わない革新論者」という定式にはっきりと現れている。どれほど熱烈に国体を支持するもの(すなわち、右翼)であっても、「革新」を口にした途端、その者は「左翼」と分類されるべき存在となる。してみれば、国体とは、一切の革新を拒否することにほかならない。
--白井聡「永続敗戦論 戦後日本の核心」P182