一連の外圧は日本の統治システムを根本から変えるきっかけになったが、逆に外圧がなければ、何も変わらず、停滞し、腐敗する。まさにそれこそが日本の元型である。そもそも、『古事記』に国譲りの神話として記されているのは、大陸から九州に渡ってきた渡来人が先住民から国を譲られたという話である。期内全域を統一した渡来人たちは、出雲の先住民と敵対関係になったが、彼らから国を譲られたという体裁で、出雲国を大和朝廷に併合したのだ。そして、国譲りの後、出雲国の人々は追い立てられ、九州や東北に安住の地を求めた。彼らはそれぞれ隼人、蝦夷(えみし)と呼ばれ、大和朝廷の征伐の対象となった。
日本列島を二分する渡来人と先住民の熾烈な生存競争は源平合戦の時代まで続いたといっていい。東西文化の差異も、東北と関西の反りが合わないのも、ここに由来する。そして、国譲りの神話はその後も外圧が強まるたびに想起され、近代以降はアメリカとの間で、戦争、占領、間接統治、従属的同盟という形で反復されることになる。
--島田雅彦「パンとサーカス」P38