日本が米国の属国にほかならないことを誰もが知りながら、政治家たちは日米の政治的関係は対等である(少なくとも対等なものに近づきつつある)と口先では言う。このことは、一種の精神的ストレスをもたらす。一方で「我が国は立派な主権国家である」と言われながら、それは真っ赤な嘘であることを無意識の水準では熟知しているからである。領土問題に典型的に現れるように、対アジア関係となると「我が国の主権に対する侵害」という観念が異常なる昂奮を惹起するのはこの精神構造ゆえである。無意識の領域に堆積した不満はアジアに対してぶちまけられる。言うなれば、それは「主権の欲求不満」の解消である。
--白井聡「永続敗戦論 戦後日本の核心」P140