ディベートなんて、コミュニケーション能力の育成にとっては最低の教育法だと思いますよ。こっちから半分の人はこの論点に賛成、こっちから半分の人は反対の立場から発言してくださいなんていうことをやったら、出来合いのストック・フレーズをどこかから借りてくるしかない。それをただ大きな声でうるさく言い立てれば、相手は黙る。そんなくだらない世間知を身に付けたって、何にもならない。そんなことを何百時間やっても、自分の中にある「いまだ言葉にならざる思い」とか「輪郭の定かならぬ感情の断片」を言葉にする力なんか育つはずがない。もっと大切なことがあると思うんです。まず思いが上手く言葉にならないで、ぐずぐず堂々巡りをする子に、「それでいいんだよ」と言って承認してあげること。
あと、矛盾するようですけれど、それと同時に、どこかでその終わりなき呟きを断念することも教えないといけない。100%ピュアな、言葉と思いがぴったりと合致した理想的なコミュ二ケーションなんてありえない、ということも教えてあげないといけない。もうこれ以上適切な言い方は見つけられそうもない、この辺で手を打とうという断念も、やっぱりコミニュケーションにおいては必要なんです。
--内田樹「14歳の子を持つ親たちへ」P55