木村尚が解説するところによると、東京湾は古来からの豊かな水域というわけではなかったらしい。海の環境が変わったのは江戸以降。爆発的に人口が増加し、生活排水が海に流されるようになると、そのなかに含まれる窒素やリンを利用した植物プランクトンも増加。それを食べる魚が増えることによって、江戸前の食文化は形成された。漁獲量のピークは昭和35年(1960年)ごろ。生活排水に有害成分が含まれ、工業廃水が流されることにより、東京湾の環境は大きく変容した。生活排水によって海が豊かになる場合もあれば、死滅する場合もあるわけで、まさに諸刃の剣である。
--大石始「奥東京人に会いに行く」P119