子どもは色々とシグナルを発信しているのに、母親がそれをほとんどシステマティックに無視する。でも、その子の中の「承認可能な部分」についてだけは、反応する。成績がいいとか、スポーツがうまいとか。でも、子どもが弱っていたり、苦しんでいたりすることを伝えるシグナルには反応しない。そういうメッセージは母親の子育ての失敗に対する言外の非難を含んでいるから。そういう受信したくないシグナルだけは選択的に無視する。自分が許容可能なメッセージだけ受診する。都合の悪いシグナルは自動的にただの「ノイズ」に変換されてしまって、もう人間の「声」としては耳に届かない。
--内田樹「14歳の子を持つ親たちへ」P46