自国の犯した失敗を数え上げて、その原因を究明することには、いつでも厳しい抑制がかかります。それは失敗の責任者たちがしばしば巧妙に責任を回避して、「次の体制」の指導層に潜り込んでいるからです。彼らは「済んだことはもういいじゃないか。過ぎたことを掘り返しても、失われたものは返ってこない。それより、未来の希望について語ろう」というようなレトリックを使います。必ず使う。一見すると、そのほうが寛容で、未来志向的な感じがするので、人々はついそれに頷いてしまう。でも、それはかなり危険なことなのです。失敗について吟味する習慣を失うと、真っ先に規制が鈍麻してしまう。
--内田樹「世界「最終」戦争論」P44