一方が正しくて、他は間違っているというのではなくて、どちらもローカルな価値観、固有の民族誌的奇習でしかないと認め合う。もちろん、内心では、「俺の方が正しい」と思っている。そう思う事は止められない。でも、それを口に出しては言わない。そういう種類の自己抑制です。心で思っていることと、口に出して言うことが分裂している。でも、そういう分裂を受け入れることによってしか過剰なグローバル化がもたらした暴力の連鎖は止められない。そういう気がしています。
--内田樹「世界「最終」戦争論」P206