今の日本の若者たちを指して、「内向き」であるとか「覇気がない」とか「ハングリーでない」とか非難する人がたくさんいますけれども、これはずいぶんとんちんかんな評言だと僕は思っています。当今の若者たちはたしかに欲望が希薄です。自動車もバイクも欲しがらないし、ブランド品の服も欲しがらないし、高級なフレンチで高額のワインを飲むことも求めないし、外国のリゾートで豪遊することも願わない。でも、それは自分の欲望のありかを他人に知られると、そこを掴まれて他人に操作されることになるということに気づいているからです。彼らは自由でいたいのです。だから、金も地位も威信も要らないと公言する。日本の子どもたちが無気力になったのは、端的に言えば、子どもたちを「金で釣ろうとした」からです。僕はそう思っています。
--内田樹「内田樹による内田樹」P78