日朝国交正常化交渉は、核兵器・ミサイル、そして拉致問題に関係すると同時に、朝鮮半島に対する日本の植民地支配の後始末、つまり日本の敗戦後処理を行なう場でもあった。そしてこのことは、先に見たように、平壌宣言・第二条において扱われた。北朝鮮は、日本側の謝罪と反省の言葉受け入れ、実質的な賠償を得るものの公式な賠償請求を放棄することに同意したが、このことは拉致問題を事実上「水に流す」ことと引き換えになされるものとされた。してみれば、平壌宣言の破棄が実行されるならば、それは日本の戦後処理の否定をも論理的に意味することとなる。言い換えれば、植民地支配の過去が「水に流された」ことを否定することとなる。日本社会が認知できず、政府が踏み込むことができないのは、まさにこの点である。
--白井聡「永続敗戦論 戦後日本の核心」P109