フレデリック・テイラーは、20世紀初頭に「科学的に」労働過程を分析し、最も効率の良い分業のパターンを計算し、知識や技術の新しいあり方を生み出した、と言われています。資本の側に都合の良いように、労働過程を単純化し、分割し、作業工程を組み直すことによって、労働者の自律性を奪っていったのです。
その批判としてブレイヴァマンが注目した、テイラー主義の大きな特徴は、「構想」と「実行」の分離という点でした。以前は知識と技術を持つ働き手が、「構想」と「実行」その両方を一緒に行っていました。まずは、作業を頭のなかで「構想」し、それから手を動かして「実行」する。自分たちのスキルや能力に基づいて、労働者たちは自律的にそれを行っていたのです。
その場合、資本は、労働者の持つ知識と技術に頼るしかない。資本からすれば、一体となっている「構想」と「実行」を引き裂く必要があったのです。というのも、知識と技術の両方を労働者が持っている限り、労働者は資本の命令を拒否することができるからです。
ところがテイラー主義によって労働者は経験や洞察に基づく知を奪われ、資本の命令に従わざるをえなくなった。こうして革命的とも言えるほど、資本の支配力が増大した、というわけです。
--斎藤幸平「未来への大分岐」P96