「類的存在」とは自己利益を追求するのと同じ熱意をもって公共の福利を気づかう人間のことです。そのような人間はさしあたり想像上の存在に過ぎず、事実上は存在しません。革命闘争や独立戦争のさなかに「英雄的市民」というかたちにおいて一過的に存在したことはあったでしょうが、安定的・恒常的に存在したことはありません。これから存在することになるかどうかもわからない。無理かも知れない(なんとなく無理そうです)。でも、人間が理想としてめざすべきなのはそのような人間ではないか。マルクスはそう考えました。
--内田樹「若者よマルクスを読もうⅡ」P122