アメリカにとって日本は、経済的にも利用できる国だった。中国と北朝鮮が社会主義陣営に組み入れられてしまい、台湾は小さすぎ、韓国は朝鮮戦争の戦場だとすれば、東アジアで西側陣営の一員となって働いてくれる工業国を育成するとすれば日本しかない。
しかし、講和条約で多額の賠償金を各国から求められたら、日本の経済的再建は大きく遅れるだろう。またアメリカが日本に再軍備を要請したところ、まだ戦争の経済的痛手から立ち直っていなかった日本政府側は、財政難の問題があるとうったえた。そういった状勢を考えたアメリカは、各国に賠償請求権を放棄してもらうことを、講話条約第十四条に盛り込むこととしたわけだ。
--小熊英二「日本という国」P122