「悪かったのは、戦争を押しすすめた日本の軍国主義者だ。日本の民衆は彼らによって戦争にかり出され、たくさんの人が死んだ。だから、中国の民衆と同様に、日本の民衆も被害者だ。そうした軍国主義者は東京裁判でA級戦犯としてもう裁かれたのだから、今の日本の民衆とはなかよくしなければいけない。だから、日本の民衆から賠償をとりたてて、苦しませたりするのはよくない」。こういう建て前をとって、中国共産党は民衆の不満をおさえようとしたわけだ。
ところが1978年に、日本の靖国神社がA級戦犯で死刑になった人々や獄死した人びとなど14名、つまり中国共産党がいうところの「軍国主義者」を合祀してしまった。その靖国神社に日本の首相が参拝に行ったりすると、「悪かったのは日本の軍国主義者で、日本の民衆は被害者だ」という中国共産党の建て前がぶちこわしになる。当然ながら、中国の民主は不満を持つ。中国政府としては、国内の民衆の不満をおさえるためにも、日本の首相や政治家の靖国参拝に抗議せざるをえない。
--小熊英二「日本という国」P157