庄一郎さんを“記憶地獄”から解き放ち、末期がん患者を痛みから遠ざけ、死期間近の人に恐怖や苦痛をほとんど感じさせない認知症は、新たな可能性を秘めた“救い”という視点から見直せるかもしれない。それによって、死こそを救いとみなしてきた、いや、もっとはっきり言えば、死にしか救いはないと絶望してきた従来の敗北的な認知症観を、根底からくつがえせるのではなかろうか。
--野村進「解放老人」P131