善人は殺されても死なないのだ。お前たちが葬ったつもりでも、別の誰かが彼を蘇らせ、その人となりを伝え、その事績を讃えるから。悪人は誰かが手を下さなくても勝手に死ぬ。すでに自らの手でわずかに残った自分の良心を殺し、他人を犠牲にして、自分の利益を貪り、結果、絶望的な未来を招いているのだから。さらにその報いとして、お前たちの名前は恥とともに墓に刻まれ、永遠に忌み嫌われる。死後の安寧を望むなら、誰からも忘れられるがよい。お前たちが生前、何をしたか、後世の人間に知られれば、お前たちの子孫にも大いに迷惑がかかる。悪事を働くなら、子孫を残すなと誰も教えてくれなかったのか?
--島田雅彦「スノードロップ」P91