M・マクルーハンの『グーテンベルクの銀河系』を読むと、国と国との大戦争が起こって本格的な大量殺戮が起こるようになったのが17世紀くらい。それは地図というものが作られだして、みんなが地図を持つようになった時期と重なるっていうんです。
その前は、王様が丘の上に立ったら見渡す限りが自分の土地で、いろんな農作物があって、「ああ、すごい」と思えた。ところがそれを地図で見ると、「なんだ、うちの王様の土地はこれだけか」とか、「グレートブリテンの中のたったこれだけか」となってしまう。「隣の国の領地はこんなにある」って、どんどんヴァーチャルになっていく。実際に地図を見たときに喚起される攻撃性って、普段の百倍ぐらいに膨らんでいるかもしれない。
--名越康文「14歳の子を持つ親たちへ」P110