批判を受けたせいで魅力が増すということはないんです。
というのは、才能ある人の魅力というのは、ある種の「無防備さ」と不可分だからです。
一度深く傷つけられると、この「無防備さ」はもう回復しません。その人の作品の中にあった「素直さ」「無垢」「開放性」「明るさ」は一度失われると二度と戻らない。
だから、この人にはまだまだ発現されていない才能があると思って、この人にはもっと傑作を作り出して欲しいと思っったら、骨がきしみ、血が出るような批判をして、欠点を補正させるよりは、どうやったら「傑作を創る気」になってくれるか、僕はそれを考えます。
--内田樹「そのうちなんとかなるだろう」P187